「奥山の大木 里へくだりて神となる」これは、ある式年祭の掛け声だ。その祭りこそ、諏訪付近で、寅と申の年に執り行われる「御柱祭」。五穀豊穣の神を祀った諏訪大社に対する祈念と伝わる無形文化財である。そして、寅を掲げる本年は、「御柱祭」開催にあたる年。その影響か、街を駆ける人々の足取りも軽く、活気あふれる瑞々しい雰囲気を漂わせている。そこで今回は、「御柱祭」に深く関わる温泉地をご紹介したい。その目的地を、私自身、蓼科来訪時に必ず立ち寄る「下諏訪温泉 ホテル山王閣」へと設定した。
「山王閣」への道程は至便明瞭。諏訪大社の「下社秋宮」へ向かえば良い。諏訪方面から国道20号線に乗り「大社通り」の信号を右折。その突きあたりが、里曳きで御柱を立納する社殿の一つ「下社秋宮」となる。少し躊躇するが、秋宮の境内を斜め右方向に入ろう。ほどなく、荘厳な四囲環境を持ちながら、来る者拒まぬ明朗さに包まれた「山王閣」が見えてくる。
「山王閣」を勧める最大の理由は、源泉の使い方にある。ナトリウムを含んだ硫酸塩泉の源泉は、若干のツルツル感を持ち、筋肉痛や美肌効果などに高い効能を誇る。その源泉を、このホテルでは循環させず掛け流しにしているのだ。下諏訪温泉で、これほど秀逸な湯使いを見せる温泉場は多くない。ここでは、清潔感あふれる内湯も良いが、木で枠組みされた湯船から諏訪湖を一望する絶景露天風呂に入りたい。正面にそびえる山々が清爽な風を吹かせれば、モウモウとした湯煙が頭上に舞い、神秘的な様相を呈する。まさに心身を休めてくれる温泉と言い得るだろう。
浴後、ロビーから諏訪の街を見下ろしてみた。キラキラと水面光る諏訪湖の上には数羽のトンビが風を切り、さらなる高みに小さき一片の白雲が行く。湯涼みを兼ねて、のどかな風光美を望む、このひと時までが、「山王閣」の妙味だと断言できる。そう思いつつ眺める遠景に、勇壮な幻影が見えた気がした。間近に迫るあの大祭の幻影が。

TEL:0266-27-8888
■立寄り入浴:午前5時~午前9時30分
午前10時30分~午後11時
■料金:500円